飾り気のない本音
施設の浴室は家庭用のような小さな造りだったので、入浴はひとりずつ。着替えを含めて、時間はだいたい20分ほど。
日中、フロアで仕事をしていると、何人も同時にお世話をするので、どうしても目先の作業に追われてしまいます。ところが入浴介助では、マンツーマン。20分間、ひとりの方にだけ、濃密に関われるチャンスでした。
温かいお湯に浸(つ)かると、心の緊張がじんわりほどけてくるのでしょう。
たとえばデイサービスの利用者さんは、家の中でのちょっとした出来事を話してくださるのですね。
お嫁さんとケンカした。孫が肩をたたいてくれた。愛犬がかわいい。
そんな飾り気のない本音をポツリポツリと語ってくれます。
入浴介助の仕事は、相手としっかりと向き合える、かけがえのない時間なのだと気づきました。
そうした経験から、利用者さんに対して徐々に興味を抱くようになり、気負うことなくコミュニケーションできるようになっていきました。