「東京ブギウギ」で失意の底から立ち上がる

戦争が始まった。ジャズは敵性音楽として歌うことを禁じられ、派手な踊りや、長い付けまつ毛まで官憲の取り締まりの対象になった。笠置は仕事の場を失って不遇な生活を強いられていた。そんなさなか、2回目の恋に落ちた。

突然、笠置の大ファンだといって一人の青年が楽屋を訪れた。名前は吉本穎佑(えいすけ)、早稲田の学生で、俳優のような端正な顔立ちをしていた(ドラマでは村山愛助役で水上恒司が演じている)。当時20歳。この青年こそ吉本興業の創業者・吉本せい(2017年下半期放送のNHK朝ドラ『わろてんか』のモデルになった)の一人息子だった。

笠置シヅ子29歳、姉と弟のような気持ちで二人の交際が始まった。戦局が悪化してくると、先の読めない不安な日々の中で、愛は一気に深まっていった。穎佑が、当時は不治の病と言われた肺結核にかかった。そして終戦。早稲田を中退して吉本興業の仕事に専念していた穎佑は、1947年1月、病気治療のため兵庫県西宮の実家に帰ることになった。笠置は回復を祈りながら東京駅で見送った。

5月19日、穎佑が亡くなる。24歳だった。6月1日、笠置は女児を出産。穎佑の遺言でヱイ子と名付けた。9月10日、未婚の母となった笠置シヅ子は、服部良一作曲の「東京ブギウギ」をレコーディングし、失意の底から力強く立ち上がっていくのである。

現在放送中のNHK朝ドラ『ブギウギ』の第1週第1回(10月2日放映)は、帝劇の楽屋でヒロイン・スズ子(趣理)が赤ちゃんをあやしている場面で始まった。そこへ服部良一役の草なぎ剛が出番を知らせに入ってくる。淡谷のり子役の菊地凛子が赤ちゃんを受け取り、スズ子を励まして舞台に送り出す。歌ったのは出来上がったばかりの服部の新曲「東京ブギウギ」だった。

没後38年、初めてのドラマ化によって、もう知る人の少なくなった笠置シヅ子のすばらしい歌や踊りが、時代を超えて愛されるようになればうれしい。

(おわり)