健康のための健康ではない

そういう時は、自分の実感にしたがうしかない。常日頃、自分の体との対話を怠らない人は、体の声がきこえるはずだ。迷うことなくそれにしたがう。間違った場合は、自分で責任をとればいいではないか。

体は時として噓をつく。それに惑わされないようにするのも経験である。ずっと自分の体の声に耳をすませて生きていると、その辺が微妙にわかるようになってくるだろう。

健康は大事だ。しかし、それは健康のための健康ではない。うまく言えないが、真実というものは明快に言い切れないものなのではあるまいか。

 

※本稿は、『新・地図のない旅 I』(平凡社)の一部を再編集したものです。


新・地図のない旅 I』(著:五木寛之/平凡社)

「地図のない旅」というのは、いわば私の生き方そのものだ。 ……あちこちの街で暮らし、この先もどうなるかわからない。「地図のない旅」は、これからも続くのだろうか。 (「あとがき」より) 90歳を迎えた著者が「人生百年時代」という未知の旅を前に、日々の思いを綴る。 出会う人々との何気ない会話、体とのつきあい方、ふとよみがえる記憶……。 変わり続ける日常を、新たな視点で見つめ直す69のエッセイ。