昔に戻るのではなく、新しい自分を生きる
私が倒れた時、息子は中学1年、娘は小学2年生。夫は仕事の合間に家事をこなし、毎日私の見舞いに来てくれました。子どもたちも、洗濯や風呂掃除などを分担してくれていたようです。退院後も、家族はいつも当たり前のように私を手助けしてくれました。
外食すると、失語症の母に代わって小学生の娘が「コーヒーは食後でお願いします」と店員さんに伝え、支払いもして(笑)。息子は「お母さんの言いたいことを汲み取るのは、クイズみたいだった」と笑います。
今でも、頭に浮かんだことが言葉にならなかったり、違う言葉を発してしまったりすることがたびたびあって。先日も、フィギュアスケートの「織田信成くん」と言いたいのだけど、出てこない。どうにか違う角度から考え、「武士の~」と言う私に、家族は「秀吉? 信長?」といろいろ連想してくれて、最後に「わかった、織田信成!」と正解に辿り着くんです。そんなふうに、私の日常はいつも明るく笑いがある。家族には毎日感謝しています。
今はとても幸せ。おおげさでなく、人生バラ色だと感じています。リハビリを続ける間、一度も絶望したことはなく、むしろ病気をしてよかったとさえ思うんです。なぜかと言うと、固定観念から解き放たれたから。
若い頃は、あれもやろう、これもできるぞ、と何でもトライして実現してきました。社会全体がイケイケで、バリバリ働くのがかっこいいという時代でしたから。でも手術後は、何がよくて、何が優れている、といった固定観念が頭から消えました。昔の自分に戻りたいとは思いません。
夫いわく、以前の私は仕事も家事も同時進行するマルチタスク能力が高かったそう。だから料理も一気に何品も作ることができた。今はその能力はないので品数は減りました。でも固定観念がないぶんユニークなアイデアが閃くのです。「いただいたブルーベリー羊羹で黒豆を煮てみよう!」とか。実際これはおいしかったですが、失敗も多々。(笑)
今の私の日常は、自分がやりたいことだけをやる。だから快適です。朝起きたらプランターの野菜に水をやり、朝食はご飯と具だくさんの味噌汁。夕食後に自分で育てた野菜でジュースを作って飲むのも楽しみの一つです。
退院後に、フラメンコを習い始めました。踊ってみたいと思ったから。でも私は右と左の区別がつかないので、群舞でほかの人と合わせられず、やめました。やってみてダメだったらやめればいい。とりあえず、やりたいことには挑戦します。
続けているのはピアノ。右手のリハビリを兼ねて、家で弾くようになったのです。今一番ハマっているのは洋裁です。洋裁学校に通い、ミシンが使えるようになったので、夫の財布や自分のワンピースなどを作りました。友人の赤ちゃんにスモックを作ってプレゼントしたら、すごく喜んでもらえましたよ。
もう一つ、私の日常に欠かせないのが散歩。病気後、免許証を返納し、バスに乗るようになったのですが、ある日、この距離なら歩けるなと思った。歩いてみたら気持ちよくて、以来、毎日2キロぐらい歩いています。わざと遠回りして、目的なくぶらぶら散策するのも大好き。