現実を前に
二大政党で政治が回っている限り、前の4年に不満があれば、もうひとつの政党を選ぶ選択に不思議はない。リベラルが無神経かつ対岸の火事のような発言ばかりで嫌われているのは事実だ。トランプを心から支持している人ばかりではないのもわかる。女で有色人種だから、がカマラ・ハリスの敗因ではないこともわかる。わかってはいるのだ。にもかかわらず、米国選挙権すらない私は今日の現実にひどく傷ついている。「あっちがダメだったから、こっち」で選ばれた「こっち」のトップに、立場に相応しいだけの人権感覚がないことに。いや、そういう人物であるとわかっていながら選んだアメリカ国民に。背に腹は代えられないと困窮する赤い地域の人たちの絶望に。自国がこの現実と無縁とは言い難いことに。
ここ数年、私は全国各地を講演で回っている。性別で勝手に割り当てられた社会的役割を、社会が期待するように担えているかどうかで自分の価値を判断しないでほしいと伝え歩いている。誰もが自分らしく「私はここにいていいのだ」と思える環境を整えることが社会の成熟には重要で、そのためにはすべての属性の人に社会が安心と安全を供給し、自らがコミュニティに受容されていると体感できることが必要だと話している。
その思いが変わることはない。同世代には、清濁併せ呑むことを含め、すぐに諦めないことが肝心だと実感を持って言える。しかしこれから先、若い世代にどう話していけばいいのか。こうなると、自分の身を守ることを優先的に考えてと、最初に伝えなければいけないような気がしてきた。
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きのうまでの「普通」を急にアップデートするのは難しいし、ポンコツなわれわれはどうしたって失敗もする。変わらぬ偏見にゲンナリすることも、無力感にさいなまれる夜もあるけれど、「まあ、いいか」と思える強さも身についた。明日の私に勇気をくれる、ごほうびエッセイ。