笛田さんの本格オペラデビューは25歳の時、演目は因縁のあの『トゥーランドット』だった。
――大学院を卒業した次の年です。大学の特別公演ですけど、今考えるとすごいですね。愛知県芸術劇場って、2400名くらい入る大ホールで、装置も衣装もちゃんとつけて本格的にやりましたから。
その後、27歳の時に、藤原歌劇団から電話があって、「今度『ラ・ボエーム』をやるんで声を聴かせてください」と。
その時は、「いや、僕のレパートリーじゃないんで……」って断ったら、しばらくしてまた電話があり、「オーディションやったけど決まらなかったんで、ちょっと声だけ聴かせてください」って。それで中島先生に相談したら、「じゃあ聴かせてあげなさい」って。(笑)
僕は名古屋の居心地がよくて、卒業してもずっと名古屋にいましたから、藤原歌劇団という名前も知らないほど無知でした。
それからずっと、現在も「藤原」に属していますけど、藤原義江というかっこいいテノールが戦後、日本のオペラ界を牽引した人だということも知らなかったほどなんです。藤原歌劇団での僕のデビューは、その時の『ラ・ボエーム』ロドルフォでした。