親の介護に親の財産を使えない

とはいえ、親のための介護費用や入院費用などを親自身のお金でまかなえないのは困ったことです。

誰にとっても、これと同じことがいつ起こるかわかりません。親が認知症になって介護施設のお世話になる場合、毎月の費用はかなりの金額になります。

月に20万円の施設費がかかるとすれば、年間240万円。それが4〜5年も続けば、1000万円ぐらいのお金は簡単に吹き飛びます。

親が認知症になるぐらいの年代だと、まだ住宅ローンや子どもの教育費がかかる人も多いでしょうから、親のお金なしでやっていくのは容易なことではありません。

親自身にとっても、それは本意ではない場合が多いでしょう。認知症になる前は「いざというときはこの預金を使ってもらおう」と思って蓄えている人も大勢いるはずです。

それを自分のために使えず、子どもの家計に負担をかけるのは、不本意としかいいようがありません。しかし、財産は「個人」のもの。実際には家族みんなで使っていたとしても、法的な所有権は本人にしかありません。

認知症などで判断能力を失えば、他人が勝手に動かせないのもやむを得ません。ここであらためて、認知症になったとき財産にどんなことが起きるのかをまとめておきます。


・銀行の預金口座……窓口に行くことが必要な取引は一切できません。

キャッシュカードでの引き出しは可能かもしれませんが、法的には問題があり、相続後にほかの相続人から損害賠償請求をされる可能性があり得ます。

・本人名義、あるいは共有名義の自宅(土地・建物・マンションなど)……建て替え、売却、賃貸などができなくなります。

・経営する会社の大多数の株式を保有している場合……株主総会が開催できず、新社長への交代もできないので、経営が暗礁に乗り上げます。

・賃貸アパートなどの収益不動産……店子さんとの契約更新ができなくなったり、大規模修繕のための融資が受けられなくなったりします。

・上場株式など換金価値の高い財産……解約などの売却処分ができません。

キャッシュカードの利用について、ひとつ補足しておきましょう。親が元気なときに子どもを代理人として、キャッシュカードの暗証番号を教えていれば、ATMでとりあえず預金を引き出すことはできます。

 

※本稿は『親が認知症になると「親の介護に親の財産が使えない」って本当ですか?』(大和出版)の一部を再編集したものです。


親が認知症になると「親の介護に親の財産が使えない」って本当ですか?』(著:杉谷範子/大和出版)

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