「あの人がそんなことするはずない」

土方は外面がよく、人望もある。周囲に、まさかあの人に限ってそんなこと、と思われるような人なのだ。でも、性加害において、加害者が「あの人がそんなことするはずない」という印象を周囲から抱かれていることはよくあることだ。

そしてある日、恵は小川と一緒にいる時に、土方と佐倉が一緒にタクシーに乗るところを目撃する。恵は心配するが、小川は見間違いだ、と取り合わない。

しかし後日、佐倉は土方に親睦会と称して個室の居酒屋に連れていかれ、抱きつかれるなどの被害に遭っていたことが発覚する。

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恵は小川に相談するが、小川は「嫌なら逃げれば良かったんじゃないの?」と事態を軽くとらえている。さらに、「証拠は? そういうの、証拠がないとどうにも出来ないよ。こう言っちゃ悪いけど、佐倉さんだってもう40過ぎだし、わざわざ土方さんがセクハラなんかするかなぁ。誤解しないでよ。佐倉さんが言ってることが嘘とかそういうことを言ってるんじゃなくて、恵は佐倉さんの話しか聞いてないから、佐倉さんが被害者に見えるかも知れないけどさ、土方さんは人望もあるし、変にオオゴトにしたら、佐倉さんの立場が悪くなるだけじゃない? 恵だって安易に首突っ込んだら働きにくくなるんだよ。俺は、恵を守るためにも言ってるんだから。」

小川は佐倉が嘘をついているとは思わない、恵の立場を悪くしないため、一方の話しか聞いていないから判断できない、などと中立的な立場を装いながらも、40を過ぎた人にセクハラするのか? 土方にも人望がある、など土方の肩を持つような発言をし、恵がこの件に立ち入らないように牽制しているのがなんともたちが悪い。