1996年5月菊之助襲名。披露の演目は『弁天娘女男白浪』の弁天小僧と『鏡獅子』で、観ていて歌舞伎座に清々しく爽やかな風が吹き込むような気がしたものだった。
――まだ大学に入ったばかりで、身体も完全に出来上がってませんし、あとで自分の姿を映像で見てみると、なんでこんなにまずいんだろう、って打ちひしがれて。それに気づかされたのが菊之助襲名でしたね。
でも、父に「襲名は、皆さんが御神輿をかついでくださるから、その上で芝居をすればいいんだよ」と言われて、『弁天小僧』の「浜松屋」は(十二代目市川)團十郎のおじさまが南郷(力丸)、(十七代目市村)羽左衛門のおじさまが日本駄右衛門に出てくださったので、その雰囲気に乗っかって……上手い方とやると、自分以上の力が出るものなんですよね。
今回、倅の丑之助が菊之助になるわけですが、6年生で襲名になるので、学校にほとんど行けないんです。なんでこんな時に、お父さんは18歳で、しかも17歳の時に1年延期してもらったじゃない、って。ちゃんと知ってるんですよ。(笑)
でも最近、父と3人で鼎談みたいなことをしたことがあって。
私は父に対してすごい緊張感があるので、芸のこととかあんまり訊けないんですけど、丑之助が父に「小さい時はどういう人に歌舞伎を教わりましたか」とか、「好きな役は何ですか」とか訊いたら、本当に真剣に答えてて。あぁ、孫には何でも答えるんだな、と思いました。(笑)