現地の空気を感じる大切さ
第2の転機は蜷川幸雄演出の現代演劇との出会いだという。2000年、『グリース』のオレステス役で、実の姉である寺島しのぶが演じる姉のエレクトラと激しく抱き合う場面を間近で観て、衝撃を受けた覚えがある。
――そうでしたね。すごく刺激的でした。平幹二朗さん始め、麻実れいさんとか素晴らしい現代劇の俳優さんとご一緒させていただいて、いろんな体験をしました。
たとえば歌舞伎だと映像や口伝(くでん)がいろいろあって、どうすればその役にさっとなれるかという方法論がたくさんある。でも現代劇だとその方法論を自分で確立しないといけないので、あの時は本当に迷いましたね。
でもありがたいことに、稽古に入る前に蜷川さんがギリシャへ取材に連れて行ってくださって、現地の空気を役者が感じることの大事さを教わりました。野外劇場で、「あそこで声を出してみるか」っていきなり本読みが始まったりとか、刺激的でしたね。
蜷川さんに言われてハッと思ったことは、まず心情から出てくる台詞で方法論を確立する、ということ。それまでとは逆の方向だから難しかったです。まず心から言葉が出てこないと薄っぺらになるということを、厳しく言われましたね。でも、それで歌舞伎に戻って勉強しなおしてみると、結局、古典歌舞伎の型というのは、心情から出てきた言葉であり、形であって、つまりは同じことなんだなと思い当たりましたけどね。