父、母、姉と1歳の岡本さん(写真提供:岡本さん)

では、偽のスカウトマンに出会ったのが第1の転機かというと、その頃さまざまな人と出会ったことが転機につながるのだから、一概には言えないのだそうだ。

――父親が、高校だけは行け、と言うんで、明大付属中野高校の定時制に入りました。その前、中3の時に1600人くらいのオーディションの中から選ばれて、『サーティーン・ボーイ 僕は札束中学生』というTBSのテレビドラマに主演したんです。

13歳の少年が盗んだ通帳から2500万円おろして、全国を豪遊して歩いて最後は捕まっちゃう。両親役が財津一郎さんと加賀まりこさんで、連続ドラマだから毎回のゲストも、かたせ梨乃さんとか蟹江敬三さんとかいろんな方たちが出る。

で、旅芸人の一座に入ったり、初体験をするシーンがあったりとか、全13回のロードムービー的なドラマ。セックスシーンや乱闘場面、新宿の繁華街で叫んだりするのとかが恥ずかしくて……。第1回の放送がちょうど16歳の誕生日で、テレビで観た時はもっと恥ずかしかった。

でもその時、何かが抜けたんですね。そうだ、プロの俳優になるなら、羞恥心を失くせばいいんだ、と気づいたんです。その日から父親の俺を見る目が変わったような気がするから、これも転機ですね。

また、母親の死というのも転機になっています。母は俺が17の時に47歳で旅立ったんですけど、俺のすることを何でも許してくれた人で。でも季節の変わり目とかによく体調を崩して入院することがあったんです。

最後の入院の時、病室で「何か欲しい物ない?」って訊いたら「そうねぇ、ヴァレンティノのバッグ」って言った。その頃は少しお金も持ってたし、わかった、今度探しとくね、と言ったんだけど、それから間もなくのこと。高校に事務所から連絡があって、お母さんが危篤だ、って。

新宿の人混みの中を走って走って駆けつけたけど、機械の音がビビーッて最後の挨拶みたいに聞こえて、亡くなってしまった。そしたらもう、腰がね、砕けるみたいになって崩れ落ちて、絶叫して大号泣して半狂乱になった。その時、父親に胸ぐらを掴まれて、「お前がしっかりしないでどうする」ってね。

当時、事務所の合宿所に住んでたから、そこへ帰ったら、男闘呼組のメンバーや少年隊の3人がいて、みんなでメロン食べながら励ましてくれた。その後、母の死を曲にしたり、仕事したりして、それによってどんどん悲しみが浄化されると、少しずつ楽になっていくんですよね、人間って。

今も悔やんでるのは、母にバッグを買ってあげられなかったこと。人間はいつか死ぬんだから、あの時こうしておけばよかったと絶対に思わないように生きよう、って、その時に強く思いましたね。