この『蜘蛛女のキス』を、森光子さんと仲良しのメリー喜多川さんが観に来て、森さんに絶賛されたとか。
――ええ、森さんが俺を抱きしめて褒めてくれました。それを見て、メリーさんの俺を見る目が変わったのかもしれない。なのに自分は『蜘蛛女』からいくらも経たない23歳で結婚して、24歳で最初の子の父親になっているんですよ。
その年がちょうど男闘呼組の活動休止とかに重なるんですけど、子供の頃から、若いお父さんってちょっといいな、という憧れもあったんです。でも結婚するとなると会社に言わなくちゃいけない。
その頃は先輩のトシちゃんとかマッチとか誰も結婚してないし、言ったらクビになるかもな。でもそれもしょうがないと覚悟して、メリーさんに電話したんです。その頃まだ携帯もないから公衆電話で。
「あの、ちょっとお話ししたいことがあるんですけど」「何よ、早く言いなさいよ」「いや、電話じゃちょっと」「私も忙しいんだから、今、言いなさいよ」って押し問答があって、でもお宅にお邪魔して。自分は母親を早くに亡くしているから、メリーさんを母親代わりみたいに思ってたしね。
「実は……結婚します」「あら、いいじゃない、で、いつなの?」「明日です」(笑)。そしたら泣いて喜んでくれて。ご祝儀も戴いて。俺もずるいっちゃずるい報告の仕方だったかもしれないけど、ダメって言われてもするつもりだったから。
でも、この結婚というプライベートなことを、マスコミに報告したりする必要があるのか。そういうの僕は嫌いだから、と言ったら、「わかったわ」と理解してくれて、ありがたかった。
それから子供が生まれた時。前に、ジョン・レノンとかデヴィッド・ボウイとかがインタビューで、「これまでの人生でもっとも後悔したことは?」と訊かれて、「多忙で、子供が生まれてもその成長の過程をよく見てこなかったこと」って答えてた。
そっか、女の人は十月十日ずっと辛抱してきたわけだから、今度は俺が最初の1年は仕事しないで専業子育てをやろう、って思ってね。1本くらい舞台が入ったかな。あとはもうほとんど育児。泣く子を泣き止ませるの、めちゃくちゃ得意でしたよ、俺。