本屋大賞
梶井基次郎という作家が、丸善という書店の本の上にレモンをひとつ置いて立ち去り、そのレモンがいつか爆(は)ぜてしまうだろうと書いた一文が、文学だと称した時代は、すでに喪失してしまっている。
ニューヨークの書店は恋愛映画の舞台になることがあるが、日本においてはなかなかそうならないのはなぜなのだろう。
本屋大賞という書店員が選ぶ面白い本というのがある。それに選ばれると本が売れるらしい。
私の疑問のひとつに、どうして、それに私の本が選ばれないのだろうか、というのがあるが、編集者に訊くと、「あれは新人が対象ですから、無理でしょう」と言われた。
「私はいつも新人のつもりなんだが」
「そんなに怖い新人作家どこにもいませんよ」
「…………」
※本稿は、『またどこかで 大人の流儀12』(講談社)の一部を再編集したものです。
『またどこかで 大人の流儀12』(著:伊集院静/講談社)
国民的ベストセラー「大人の流儀」シリーズ最終巻。
伊集院があなたに贈る最後の言葉――数えきれない出逢いと別れを経験してきた作家が死の直前まで書き綴ったラストメッセージ。