何度注意しても遅刻がなおらない、場の空気を読むことが苦手……。自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの総称である「発達障害」という言葉が一般的に浸透してきています。そのようななか、1万人以上をカウンセリングしてきた公認心理師の舟木彩乃さんは、発達障害の傾向がありながら診断がついていない「グレーゾーン」の人たちがいることも指摘しています。そこで今回は、舟木さんの著書『発達障害グレーゾーンの部下たち』より一部を抜粋してご紹介します。
「定型発達」と「発達障害」
みなさんの部下に、次のような項目に当てはまる人はいないでしょうか。
・場の空気や雰囲気を読むことが苦手
・表情や声の抑揚が乏しい
・ルーティンを乱されると不快感を表す
・悪意はなさそうなのに、よく人を怒らせている
・音にストレスを感じやすい
これらは「発達障害」に見られる特徴の一部です。発達障害は、脳のさまざまな機能の発達に関する障害のことを指し、先天的(生まれつき)なものとされています。
カウンセラーである筆者は、このような特徴によって職業生活が妨げられているようなケースの相談を受け、「部下は(自分は)発達障害の可能性があるのではないでしょうか?」と聞かれることがあります。近年、「発達障害」という言葉が広がってきたからだと思いますが、実は発達障害という単一の疾患があるわけではありません。
発達障害とは、「自閉症スペクトラム障害:ASD(Autism Spectrum Disorder)」(以降、自閉スペクトラム症またはASD)や「注意欠如/多動性障害:ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)」(以降、注意欠如・多動症またはADHD)などの障害の総称です。
さきほどの特徴も、ASDとADHDに見られるそれぞれの特徴を挙げたものです。職場の発達障害に関する相談で圧倒的に多いのがこの2種類であることから、本記事ではASDとADHDを対象として「発達障害」という表現を使います。