想定より広がりすぎた
実は、私が不快感をマックスまで募らせたのは、話した記憶のないことを話したと断定されたからではない。それ自体は、お門違いと笑っていられる範疇だ。では何に嫌悪感を抱いたかと言えば、よそでやってくれという厚かましさに無自覚なまま、自分の「好き」や「切実」を人質にしてパッシブ・アグレッシブ(受動的攻撃性)な交渉を試みてきたからだ。無料で聴ける番組であり、聴かない選択肢もあるのに。
この一件で、匿名の他者から「私が気に入らないので、あなたの言動を改めてください」と言われるのが生理的にかなり不得手だとわかった。得意な人などいないが、気にしない人、すぐに改める人は存在するだろう。私は違う。自分にはその権利がある、という態度で「弁(わきま)えろ」と言ってくる人が無理すぎる。被害者めいた仕草はもっと無理。
DM主は、政治にまつわる出来事で個人的に嫌な思いをしたことがある人かもしれない。でも、その大義名分で私の行動を制限できると思ったら大間違いだよ。
ジェーン・スーが想定より広がりすぎた、とも思った。欲望を不躾にぶつけても構わない相手と判断されたのは、そういうことだ。「私を楽しませて当然な存在」と認識されているのだ。トホホであります。
私は、やりたくないことはやらずに済む人生を送る。言うことなんか、聞かないよ。
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きのうまでの「普通」を急にアップデートするのは難しいし、ポンコツなわれわれはどうしたって失敗もする。変わらぬ偏見にゲンナリすることも、無力感にさいなまれる夜もあるけれど、「まあ、いいか」と思える強さも身についた。明日の私に勇気をくれる、ごほうびエッセイ。