唱歌童謡は「心の離乳食」
だが、細かいことは、いいではないか。昔はそういう仕事があった、そういう先生がいた(いまでも、いるだろう)、そういう風習があった、でいいではないか(でないと、どうやって歴史を教える?)。
わたしたちだって、歌詞の意味が全部わかって歌っていたわけではないのだ。海沼氏は、唱歌・童謡のなかには、「美しい日本語」があるという。「思いやりの心を育てる」ともいう。
それは経験的には、わからない。あるいはまた、唱歌童謡は「心の離乳食」だという。これはうなづける。
しかし一番いいのは、メロディが美しいことだ。心が自分の幼年期に引き戻され、幼年期を呼び起こし、これ以上懐かしいことはない。
わたしの好きな唱歌は「仰げば尊し」であり「赤蜻蛉(とんぼ)」であり「里の秋」である。「たき火」「早春賦」「どこかで春が」「故郷(ふるさと)」「みかんの花咲く丘」「旅愁」「朧月夜」である。
いまでも歩いている途中にいきなり思い出し、口ずさむことがあるのだ。
※本稿は『77歳、喜寿のリアル:やっぱり昔は良かった!?』(草思社)の一部を再編集したものです。
『77歳、喜寿のリアル:やっぱり昔は良かった!?』(著:勢古浩爾/草思社)
もはや文明がどん詰まりまで来て、私たちの暮らしは便利になっているはずなのに、
なぜか昔に比べて生きにくくなってきているのではないか。
時代遅れのあの当時のほうが、現在の進んだ時代よりもよかったのではないか――。
累計16万部突破のロングセラー『定年後のリアル』シリーズの著者が、
77歳の「なんの変哲もない日々」の近況を明かしつつ、
過ぎ去っていった「あの頃の時代」を徹底的に懐かしむ。