(撮影:村山玄子)
評論家の樋口恵子さんと作家の黒井千次さんは、幼馴染。ともに「老い」に向き合う著作が話題となっています。戦争体験から八十余年、人生の悲喜こもごもを経験してきたお二人が、近況を赤裸々に綴りつつ、エールを送り合ったお便り。老いへの葛藤と好奇心、よりよい生き方についてのヒントがちりばめられています(イラスト:マツモトヨーコ 撮影:村山玄子)

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《第三信》樋口さんから黒井さんへ

黒井千次様

お返事ありがとうございます。

黒井さんのお手紙に、「〈老い〉は敵ではなく、憎まれ口を利きあう〈友〉のようなもの」という一文がありましたが、そのユーモアのセンスに脱帽。思わず笑みがこぼれました。

小学校の頃は優等生然として級長がよくお似合いでしたが、その後の人生で深い洞察力と洒脱なセンスを身につけられた。「老い」を語る際は、多少のユーモアを交えないと、うら寂しい感じになりがちです。往復書簡の相方が黒井さんのような方で、本当によかったなと思います。

「老い」は憎まれ口を利きあう友のようなものというのは、私も同感です。抗いようがないなら、居直って、折り合うしかない。まぁ、友と言っても一種の悪友でしょう。いわば不良どうし、馴れ合って、つるんで、なんとかやっていく――そんな感じだと思います。