自衛隊の“お客さん”は国内の中央省庁ではない
旧海軍は、1944年以降に敗戦が濃厚となり、どんどん組織を見直した。だが、若くても当時の作戦に最適の人材を新ポストに付けようとすると、同じ階級の先輩がいるので、それはまかりならぬ、などというバカなことを真顔でやっていた。
年次主義を維持することは、それなりの合理性もある。先輩も後輩も同列に並べ、成果次第では後輩が先輩を追い抜くような人事システムは、営業利益を最大化することが目的の私企業にとっては利点があるかもしれない。
だが、指揮命令系統を尊重することで巨大組織を動かすことが求められる自衛隊にあっては、隊員同士がライバルとなって成果を競い合うような環境は必ずしも望ましいとは言えない。短期的な成果を争うのではなく、長期的な展望に立ち課題に取り組む上でも年次主義は利点がある。
また、政府の中央省庁で、課長クラスの年次がバラバラであれば、省庁間の折衝がやりにくいということもあるだろう。各省庁で年次をそろえ、ひょっとしたら東大などの同級生同士で気心も知れた間柄で折衝を行えば、無駄な争いを避けることができるかもしれない。
国内の調整が最も大事な仕事である場合は、それでも構わない。だが、自衛隊の“お客さん”は国内の中央省庁ではない。我が国の法律や規則で規制できない、「何でもあり」の外国の軍隊なのだ。
いざというとき、自衛隊は外国の軍隊と戦わなければならない。その際の人事は、指揮官の序列を任官年次で律する年次主義ではなく、敵である外国軍隊に戦闘で勝ちうる最適人材を、先輩後輩に捕らわれず自由に任命できる制度が必要である。これからの海上自衛隊ではそうあってほしい。
※本稿は、『自衛隊に告ぐ-元自衛隊現場トップが明かす自衛隊の不都合な真実』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『自衛隊に告ぐ-元自衛隊現場トップが明かす自衛隊の不都合な真実』(著:香田洋二/中央公論新社)
戦後80年間の平和に浴し、自衛隊は有事に闘えない組織になってはいないか。
「これは、誰かが言わなければならないことだ」。
元・海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将)が危機感と使命感で立ち上がった。




