父自身は裕福な家に育ち、苦労知らず。それでも一生、創作を続けたのは、みんなが喜んでくれる詩を書きたいという、ある種ショーマン的なところもあったと思います。サービス精神が旺盛なんでしょうね。
そんな父に老いが見え始めたのは、80代半ば頃でしょうか。普段はとても元気に動き回っていましたが、車を運転していて事故を起こしたのです。もう危ないから運転はやめたほうがいいと兄から言われ、86歳の時に免許を返納しました。
数年前の夏、近所に散歩に出かけた父が坂道で動けなくなり、地面に座り込んでしまったことがあって。気づいた近所の方が手助けして家に連れ帰ってくれたそうです。2020年頃から、足元がおぼつかなくなり、じきに車椅子生活になりました。
2024年に刊行された伊藤比呂美さんとの対談集『ららら星のかなた』の最後に、こんな父の言葉が記されていて。「今一番したいことはなんですか?/私は立ち上がって歩きたい!」。これを書いた時の父の気持ちを思うと、ちょっと切なくなります。