俊太郎さんが過ごしていた部屋は、やさしい光につつまれている

老いと死に向き合っていた父

兄は、現代詩を歌うグループ「DiVa(ディーヴァ)」の活動に、1996年頃から父を引き入れ、全国各地で音楽と朗読のコンサートを行っていました。父が高齢になっても、兄が近所に住んでいたのでなにかと安心でしたね。

私が時々帰国するたびに、父は「うれしい」と言ってくれて、好物の大根の煮物をつくると喜んでくれました。晩年にそうやって一緒の時間を過ごせてよかったと思います。

私は、父の仕事にはあまり目を通していなくて。詩も全部は読んでいませんが、「芝生」という詩は好きです。

芝生

そして私はいつか
どこかから来て
不意にこの芝生の上に立っていた
なすべきことはすべて
私の細胞が記憶していた
だから私は人間の形をし
幸せについて語りさえしたのだ
(出典:「芝生」『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』/青土社)

この詩が好きな理由をうまく言葉にはできないのですが、人間は地球に生まれる前に魂が宇宙のどこかにいて、地球で肉体が滅びた後、また宇宙に帰っていくのではないか、といったことを感じさせてくれるんです。