「老い」を教えてくれる師

調べてみると、お釈迦様の享年は80歳ながら、当時の人々の平均寿命は40歳程度です。だとすれば、仏教に「老」の教えがないのも無理はないのかもしれません。

しかし今、人生100年時代が現実となりつつあるなかで、むしろ「老」にこそ教えが求められているのではないでしょうか。

私自身、70歳となり、「老い」を自覚する年齢を迎えました。

老境に足を踏み入れ、「老い」とどう向き合えばよいのか。

その答えを探していた3年ほど前のこと、ふいに私のクリニックを訪ねてくださったのが、山本 學さんだったのです。

我々世代にとって、「山本 學」といえば、昭和の時代に映画界とテレビ界を一世風靡した名優です。

「自分はレビー小体型認知症ではないか」

そんな疑いを持ち、學さんは受診を希望されたのですが、問診をしても、頭脳もまだ明晰で、記憶もしっかりしていらっしゃる。

「まあ、問題はなかろう」、そう思いつつ精密検査を行ったところ、結果は軽度認知障害でした。

そこから私たちは、医師と患者としてのお付き合いを始めることになったのです。

ところが、対話を重ねていくうちに、私は次第に気づかされていきます。

學さんは、患者であると同時に、医師である私に「老い」を教えてくれる師でもあったのです。