リアルな「老いの声」

さらに學さんは、こんな言葉も語ってくださいました。

「以前なら1日1万歩は歩けていたのに、がんの手術を受けてからは5000歩も怪しくなった」「美味しそうだ、これくらいは腹に入ると思って食べると気持ちが悪くなり、時に嘔吐もする」「好きな原稿書きがまとまらず、起承転結など程遠い」などなど。

けれど、學さんの真骨頂は、その後に続く一言にあります。

「もっと嫌なのは、明日以降はもっと下がるぞ、悪くなるぞと思わざるを得ないこと。そんな経験の連続こそが『老い』を生きるということなのだ」というものです。

88歳の今も単身生活を続けられ、2つのがんを抱えて、まさに満身創痍の學さん。その言葉は、比喩でも美談でもない、リアルそのものの「老いの声」でした。

※本稿は『老いを生ききる 軽度認知障害になった僕がいま考えていること』(アスコム)の一部を再編集したものです。

 

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老いを生ききる 軽度認知障害になった僕がいま考えていること』(著:山本學・朝田隆/アスコム)

白内障、緑内障、2度のがん、そして軽度認知障害(MCI)。
88歳、俳優・山本學が、軽度認知障害と診断され、体も心も少しずつ衰えていく現実のなかで、それでも「今日を生ききる」その思いを収めています。

一人暮らしを続けながら、食事のこと、病気のこと、トイレのこと、物忘れとの付き合い方、そして終活について、日常の小さな困りごとをひとつひとつ受け止め「もう最期まで付き合おう!」と飄々と語る、その心の内にあるものは?

本書は、山本學さんが、認知症専門医・朝田隆医師と重ねた対話によって生まれた一冊です。
医師としてのまなざしと、俳優としての観察眼が交わるとき、「老いを生ききる」とはどういうことかが浮かび上がってきます。