「借りる」ほうにぐいっと心が傾いた瞬間

思ったよりも薄暗いな。古びた感じは想像していたよりもリアルでした。日当たりはさほどよくなさそう。お風呂はあまりきれいじゃない。マイナス面が目についてしまう。だけどだけど、部屋の壁二面に掃き出し窓があり、その向こうにさまざまな木が植わっている小さな庭が見渡せる。縁側っぽくベンチもおかれている。このベンチでお茶したら楽しそうだなぁ。妄想は膨らみます。

「2階も見ますか?」とAさんが促してくれて、急な階段を上ると、畳敷きの6畳間が一つ。ベランダの向こうは庭の木々の葉がわさわさと生い茂り、その向こうには校舎が見える。学校?

『50代、「心地いい暮らし」は自分でさがす 東京・京都の二拠点生活、海外ひとり旅、憧れの身軽な生き方』(著:しょ~こ/PHP研究所)

「そうなんです。高校が隣ですね。夕方になると部活の声が聞こえてくるんですよ」

ベランダから中に入り、ふと足元に目をやると、木漏れ日が畳に影を落とし、ゆらゆらと揺れています。実は私、木漏れ日が大好きで、見るともれなく写真を撮ってしまうほどなのです。この瞬間、「借りる」ほうにぐいっと心が傾きました。

ちょっと暗めの1階とは違い、2階の和室は太陽の光がさんさんと降り注いでいます。寝室はこっちかな? ここでお昼寝したらいいだろうなぁ。近所からの目線もないし、ベランダでお茶しちゃったりなんかして……。またもや妄想が膨らみます。

そこでAさんがひとこと。

「どうしますか? このあと予約が何件か入っていて、先に申し込みをしてもらわないと流れる可能性があります。先着順なのか、大家さんが決めるのかはまだわかりませんが、とりあえず仮申し込みだけでもされますか?」

うわぁ、どうしよう? ちょっとイメージと違ったところもある。だけど庭と木漏れ日が魅力的すぎる。一生に一度、こんな家に住めるチャンスはないかも。二拠点生活うんぬんというよりも、この家そのものの吸引力に惹かれてしまった私は、逡巡の末に「申し込み書、どこに送ったらいいですか?」と口を開いていました。

駅までご一緒しましょうか。Aさんと一緒に私鉄の駅まで歩きました。駅からは徒歩20分とけっこう距離があるのと、建物が古いことで家賃が安いよう。だけど駅までの道のりも、川が流れていたり見晴らしのいい大きな公園を抜けたりと、散歩コースとして最高なのです。東京に部屋を借りる、ということがじわじわと現実味を増してきます。審査はあるみたいだけど、そこでダメだったら縁がなかったってことだよね。

「なぜ二拠点生活を始めたんですか?」

そう聞かれると、うまく答えられません。でもいいじゃないですか。50歳を過ぎて東京で暮らしたくなった。いい物件と出合った。木漏れ日にひと目惚れした。理由なんてそれぐらいシンプルでいいと思うのです。

昭和っぽい雰囲気と畳の上にゆらゆらと揺れる木漏れ日。これにグッときてしまった!(写真:『50代、「心地いい暮らし」は自分でさがす 東京・京都の二拠点生活、海外ひとり旅、憧れの身軽な生き方』より。撮影 6151 )