手続き的記憶
私自身、これまで多くの認知症の患者さんを診てきましたが、いわゆる「ぼけ症状」(知能低下やもの忘れ)が強く出ている人でも、箸を使って食事をする、洗濯機や炊飯器、掃除機などの家電を操作する、そして車を運転するといった「手続き的記憶(身体が覚えている動作)」は、ほとんどの場合しっかり保たれています。
もっと重症になれば、ブレーキとアクセルの区別がつかなくなることもあり得ないわけではないのですが、その場合は車を運転すること自体が困難です。そもそもエンジンさえかけられない可能性が高いので、事故を起こす直前までは普通に運転していた、というのはどう考えても不自然なのです。
つまり、ブレーキとアクセルの踏み間違いによる暴走事故が、「認知症のせいで起きる」などというのは、認知症に対する正しい知識がないからこそ出てくる無責任な憶測です。
そして、こういう憶測をテレビが垂れ流し続けた結果、「認知症の高齢者が暴走事故を起こす」という嘘が、人々の心の中に本当の話として刻まれてしまったのです。
