初期の認知症で理解力や判断力の低下は起こらない
コメンテーターたちの嘘に多くの人たちが簡単に納得してしまうのは、認知症についての正しい知識が共有されず、誤解ばかりが広まっているせいです。
たとえば、「認知症になるといきなり何もかもわからなくなる」と思い込んでいる人はとても多いのですが、認知症の多くは段階的に少しずつ進行します。
また、初期症状のほとんどは記憶障害です。もう少し詳しく言うと、「記銘力」という、直近の出来事を記憶する力が徐々に低下して、昨日聞いたはずの話を忘れるとか、同じ話を何度もする、ついさっき何かを置いた場所を忘れるとか、そういったことが起こるようになっていきます。
ただし、この段階で低下する「記銘力」は、「手続き記憶」とはまったく別ものなので、車を運転することも含め、日常的にやってきたことをやる上では特に支障はありません。「認知症の症状が出始めた」からといって、アクセルとブレーキの操作の仕方が急にわからなくなるとか、アクセルを踏むべきか、ブレーキを踏むべきかの判断がつかなくなる、といったことにはならないのです。
確かに、「キッチンの火をつけたまま外出してしまう」とか、「ちゃんと火を消してね」と5分前に家族が注意しても効果がない、といったことは起こり得ます。
その様子を見て、理解力や判断力が低下してしまったのだと周りの人は思ったりするのですが、決してそうではありません。認知症の初期の段階にある患者さんは、火をつけたまま外出してはいけないことも、家族が言っていることもちゃんとわかっています。
トラブルの原因は、「少し前に火をつけたこと」や「直前に家族に注意されたこと」を忘れてしまう点にあり、そのせいでそのまま外出してしまったりするのです。