山口瞳さんとのエピソード
収入については時代を離れたエピソードがある。大先輩の山口瞳さん(1926〜95)と選考会でご一緒したときだった。雑談の折だった。
「文庫本の高さと同じくらい横幅があったら老後は大丈夫だよ」
と大先輩は笑う。
おわかりだろうか。自作の文庫本を立てて並べてその横幅が高さくらい……つまり15センチもあればその印税で、著作権料で老後の生活はなんとかなる、ということだ。本の厚さにもよるが10冊くらいで15センチだろう。
――そうかな――
若い私を安心させるジョークだったのかもしれない。あのとき私はすでに10冊くらい自作の文庫本を上梓していただろう。
山口さんの時代は、この言葉が通用したのかもしれないが、
――今は駄目――
完全に駄目。不肖私は自作の文庫本を並べれば優に1メートルを越えるだろう。昨今は増し刷りなんて滅多にない。この方面からの収入は限りなくゼロに近い。