義父の至言
私は早くに父を失ったが、妻のよき父とめぐりあったのは好運だった。義父は上場企業の役員まで務めた経営者で、なかなか有能の士であったようだ。あるとき茶をすすりながら、
「金利を2倍にしたかったら……」
たまたま家計のことが話題になっていた。会社の経営などに長く関わった人なら、なにかしらすばらしい知恵があるのかもしれない。私は、
「はい?」と聞き耳を立てた。すると、
「元金を2倍にすればいい」
なーんだ、とは思わなかった。むしろ、なるほど、と思った。
――これが正しい方便なのだ――
金融機関が一定の金利を定め、世の中がそれを基本として動いているのに、それを大きく上まわるものを期待するのはまちがっている。充分に危険なことなのだ。世上によくある金融詐欺など、被害者のほうにもしばしば勘違いが見え隠れしている。私は義父のこの至言を以来ずっと信じて暮らしてきた。
義父からはもう一つ教えられた当たり前のことがあって、
「火災保険なんてものはな……」
これも茶飲み話だったろう。
「はい?」
「お金を払って、ただ取られるのが一番幸せなんだよ」
毎年、何万円か保険会社に支払っているけれど、何事もなく、なんの利益もなく、でも、
――それでいいのだ――
火事に遭ったら大変だ。
――この一年無事だったな――
それをよしとして喜べばよいのだ。