霧に連れられカフェに入った。中年の夫婦がやっていて、霧とは知り合いのようだった。
「霧さん。いらっしゃい。暑いね、今日は」
「本当に」
奥の席に通され、二人ともアイスコーヒーを頼んだ。老舗の蔵だけあって、霧はこの辺りでは顔が知られているようだった。霧の知り合いに見られている、と思うと緊張して落ち着かない。
運ばれてきたのは「コールドブリュー」だ。水出しなので普通のアイスコーヒーよりはさっぱりとしている。
「そういえば剣人がすみません。ちょっと調子がいいところもありますが悪気はないんですよ」
困った顔で霧が額に手をやり、落ちてくる灰色の髪を落ち着きなくかき上げた。
「いえ、別にそんなことは思いませんが、ただどうしてあんなに嬉しそうなのだろうか、って」
「ああ、それは」
霧が言い淀んだ。そして、もう一度髪をかき上げると、思い切ったふうに話しはじめた。
「剣人はあなたが来るのを喜んでるんですよ」
「私がお邪魔することをですか?」
「僕は仕事以外の付き合いがあまりないので……山際さんが外に連れ出してくれたことに感謝してるんだと思います」
霧はすこし早口で言うと、ストローで氷をかき混ぜた。からからと鳴る音がした。
「勝手に勘違いしてご迷惑ですね。すみません」
笑って軽く頭を下げた。霧の眼と口許に綺麗な皺が波打って、私はかあっと身体が熱くなった。
「いえ。こちらこそ押しかけてしまって……」
またしばらく二人とも無言になった。話が続かないのでコーヒーばかり飲んでいたせいで、あっという間にグラスが空になった。
「お代わりをもらいますか?」
「ええ、お願いします」
私と霧はもう一杯「コールドブリュー」を頼んだ。
