彼女に似合うのは本天でもなく革でもない。やはり木綿。しっかりした紬の鼻緒が合うだろう。
「ほかになにかご質問はありますか」
「いえ、なにも。……何度もご足労いただき、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそお時間をいただいてすみません」
 とうとう話すことがなくなった。仕事が終わってしまえば、もう彼女と会うこともない。それとも定期的に広告を出し続けるか? その度に世間話くらいはできるだろう。だが、それではなにも変わらない。……いや、変わる。もっともっと落ち着かなくなるだろう。
 俺は椅子から立ち上がった。木綿子も立ち上がってバッグを肩に掛けた。
「ちょっと外へ出ましょうか? コーヒーを飲む時間くらいありますか?」
 近くの店はみな顔見知りだ。すこし離れたところに行きたい。車で家まで送るということにして、どこか途中で見つけた店に入って話をしよう。
「今日も電車で来られたんですか?」
「いえ。車です。近くのコインパーキングに駐めています」
 しまった。計画が狂った。山際木綿子が車で来ているなら、俺が送っていくことはできない。では、これからどうしよう。立ち上がったものの途方に暮れた。
「霧さん、行ってらっしゃい。ごゆっくり」
 いつの間にか剣人が奥から出てきて、笑顔で追い出された。仕方なしに二人で店を出た。幸い通りに人の姿はない。そのとき気付いた。下駄のままだ。これでは車の運転はできない。どちらにせよ遠くへは行けなかったのだ。
 いつもは開け放したままの表の戸を閉めた。