「僕はバツイチです。離婚してもう十年以上になります。子供はいません」
「でも、中条(なかじょう)さんたちがおられて賑やかそうです」
「毎日うるさいくらいですよ」
「いいですね。羨ましい」
 杉玉の下に突っ立ったまま、俺たちはこれだけの会話をした。まるで当たり前のように、日々の暮らしの延長のように、緊張して手に汗をかきながら、それすら心地よいと感じている。そう、俺は怯えながら快感と期待に震えている。
 俺は夢を見ようとしている。夢を見たいと思っている。そんなことが許されるはずもないのに。
 ……くそ。
 俺は心の中で毒づき、それから気付いた。この気持ちは怒りではない。懇願だ。もしくは、なりふり構わない祈りのようなものだ。今さら取り繕ってどうする? 俺は夢が見たいのだ。もうどうしようもなく独りが怖いのだ。
「山際さん。もしよければこれからも会いませんか?」
「え? ええ。それはもちろん……」
 山際木綿子は戸惑ったような表情でこちらを見た。混乱して、とりあえず返事をしたというふうに聞こえ、俺はすこし焦った。