「何時頃までなら大丈夫ですか?」
「四時には戻ります」
「そうですか。夕食でも、と思ったんですが」
「家に身体の悪い父がおりまして……。今日はデイサービスに出かけているんですが、夕方には帰ってくるので」
「それは大変ですね。僕のところは早くに両親が亡くなりまして、ある意味気楽な身分です。山際さんはお父様とお二人で暮らしてるんですか」
「娘が一人いて、三人で暮らしております」
「娘さんがいらっしゃるんですか……」
 そこで俺は言い淀んだ。夫はどうしたのだろう。別居しているのだろうか。離婚か、死別か。それとも単身赴任か。だが、それ以上突っ込んで訊ねることは憚られた。
 山際木綿子もすこし迷っているようでためらっていたが、やがて思い切ったふうに口を開いた。
「……夫とはもう二十年以上前に死別しました。以来、実家に戻って子育てを」
「そうですか。じゃあ、ずっとお独りですか」
 冷静に言ったつもりだったが、すこし声が弾んでしまった。恥ずかしくなる。
「ええ。独りです」
 山際木綿子は淡々と答えた。俺の動揺に気付いていないのか? すこし焦りながら言い訳のように言葉を足した。