「仕事とは関係無しに会いたいんです」
「はい」
 重ねて言ったが、山際木綿子は怯えたような眼をしている。彼女も怖いのだ。そう思うと、すっと楽になった。
「もっとはっきり言います。僕とお付き合いしてください」
 付き合ってくれ、と口にするのは生まれてはじめてだった。美雨(みう)のときには、そんな言葉一つなく、ただ当然のように結婚したからだ。
 ああ、そうだ。俺は人を好きになったのもはじめてだ。だから、こんなに震えている。
 俺はもう一度夢を見る。ほんのすこしの間だけでも夢を見るのだ。

        *

 私は「記録2」を読み終え、パソコンを閉じた。
 なりふり構わない祈り。
 霧の言葉がさらさらと雪のように降ってきて、私はその中を犬になって駆け回っている。
 そう。あのとき私が感じた予感は、まさになりふり構わない喜びだった。
 そして、なりふり構わない二人が行き着いた先が、死人の半纏に語りかける老女が一人暮らす家だ。
「霧さん、おやすみなさい」
 半纏に向かって言うと、部屋の灯りを消した。
 

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