60歳を過ぎた木綿子は父の介護と引きこもりの娘の世話に日々追われている。不幸ではないが、いろんなものを諦めてきた人生だった。けれど、ひょんなことから知り合った2歳年下の男と出逢う。二人は互いに惹かれていくが……。遠田潤子さんが描く、静謐で過激な大人の恋愛小説。ぜひお楽しみください。

 ゴールデンウィーク明けの火曜の午後、原稿を持って山際木綿子が現れた。
「この前は留守をして失礼しました。プリンをありがとうございました。美味しくて、みな喜んで食べましたよ」
「いえ、こちらこそ勝手にお伺いしてすみません。プリン、喜んでもらえてよかったです」
 なんだか二人とも、かえって以前より堅苦しくなったような気がする。ぎくしゃくした雰囲気のまま、打ち合わせに入った。
「内容は問題ありません。このまま進めていってください」
「わかりました。では、実際の誌面データが出たら、もう一度チェックをお願いします。見本ができたらお届けします」
 あっという間に話すことがなくなってしまった。山際木綿子がタブレットに入力している間、俺は下駄の鼻緒のことを考えていた。