光と闇が手を取り合って
ほかにも、役者の楽屋入りを知らせる着到板(ちゃくとうばん)を書く係の人がいます。ひっそりとした小部屋に、すでに亡くなった役者たちの着到板が缶に収めて大事にしまってあるのを見たときも、同じ気持ちが湧きました。
小説のなかに登場する「稽古ピアノ」など、初めて耳にする職種、ちょっと不思議に思えるような劇場内の仕事のあれこれも、ほとんどが実際にあるものです。細かく分業化されているのは、「良い舞台を作る」というシンプルな目標のため。
小説にも描いたように、舞台というのは一つの小さな失敗も許されない世界です。その緊張感のなかで、スタッフも俳優も、皆さんいろいろな形で「祈っている」。ある役者さんは、「客席の3階何番の席の暗闇に向かって胸のなかで祈る」と。そこに自分を守ってくれる神様がいると考えるのかもしれませんね。
取材で一度、その日のすべての公演が終わった後の客席に座らせてもらったことがありました。照明が完全に落とされ、自分の手さえも見えない真っ暗闇。人生の中で最も深い闇でしたが、不思議と怖くはなかった。
次の日にまたスポットライトが当たるまで、「ちゃんと守っていますよ」という感触の暗闇でした。光と闇が反発するのではなく、手を取り合って一つの舞台を作るのが、劇場という空間なのでしょう。
