「お祖母ちゃんの糠だね。毎日混ぜてた」
「憶えてるの? 小さい頃のことなのに」
「憶えてるよ。怖かった」
「え?」
「ぐるぐる掻き回しているのが、泥遊びみたいで面白そうに見えたの。だから、お祖母ちゃんに言った。私にもやらせて、って。お祖母ちゃんがやらせようとしたら、たまたま横にいたお祖父ちゃんが怒った。手にばい菌がついてるから駄目だ、って。お祖母ちゃんがかばってくれたけど、お祖父ちゃんは今度はお祖母ちゃんを怒った」
 私は絶句した。まるで自分が言われたかのように胸が苦しくなった。
「本当に私の手が汚かったのかもしれない。ただ、手を洗えばいいだけの話だったのかもしれない。でも、すごくショックで……。それ以来、なんだか糠に触るのが怖くなって」
「……ごめん、麻子。嫌な思いをさせて」
「今でも忘れられないの。……ばい菌がついてるから駄目だ、って」
 ふいに麻子が泣き出した。
「大昔の話なのに、こんなことにこだわるのはおかしいとわかってるのに、でも、怖くなるの。私はやっぱりばい菌なのかな、って」