奥から剣人が出てきた。俺たちの様子を見てぎょっとする。大丈夫だ、というふうに軽くうなずくと、心配げな顔でまた奥へと戻って行った。
「麻子ちゃん。駅まで送っていこう」
だが、頑なに動かない。俺は麻子ちゃんのバッグを持ち、さあ、と軽く促した。
「歩きながらでいい。僕の昔話を聞いてくれないか」
「昔話?」
意外そうな表情で俺を見る。だが、心なしか表情が和らいだように見えた。
「そうだ。愉快な話じゃない。でも、麻子ちゃんに聞いてほしい」
「私に? わかりました」
眼に力が戻ったのを確認し、二人で店を出た。駅に向かう道を黙って二人で歩く。
「僕には高校からの親友がいた。バドミントンのペアを組んだ相手で、毎日二人で練習をして、遊んで、とにかくいつも一緒にいた。だが、その男は怪我でプレイできなくなり、自殺した」
麻子ちゃんが足を止め、俺の顔を見上げた。愕然とした表情には幼さしか感じられなかった。
「僕は親友の死が受け止められなかった。人と関わるのが怖くなり、閉じこもった。どん底のまま、故郷に逃げ帰ってきて蔵を継いだんだ」
「霧さん。今でも苦しんでるんですね」
「ああ。大切な人間の死ほど辛いことはない。君が死んだらみんなが辛いんだ。だから、死ぬなんてことは絶対に口にしないでくれ」
「霧さん、私……」
麻子ちゃんが涙を拭いた。駅が近づいてきたので人通りが増えてきた。俺はゆっくり歩き出した。
