手早く化粧をして部屋に戻った。冷蔵庫を開けると、ビールが三本、チューハイが二本、ハイボールが二本、入っていた。
「こんなにたくさん」
思わず呆れて笑うと、霧はすこし嬉しそうだった。
「木綿子さんは酒豪かも知れないから」
「まさか。たしなむ程度です」
ソファに座ってビールを飲んだ。ワインとビール。一日に両方飲んだのはこれがはじめてだった。
霧はなにも言わない。だが、ふいに立ち上がってカーテンを開けた。窓一杯に夜景が広がる。大丈夫なのか、と霧の表情をうかがった。すこし青ざめているように見えた。
私も黙って窓の外を見た。海に浮かんでいるのは関空の灯りだろうか。じっと見ていると、光の点が動いて、飛行機が飛び立ったように見えた。
ふっと思い出した。
白鳥は哀しからずや。空の青、海のあをにも染まずただよふ――。
きっと霧は空を飛んでどこかへ行ってしまうだろう。だって白鳥なのだから。私はきっと残される。空を飛べないから。
そんなことを考えていたら、ふいに霧が呟いた。
「……開かない窓なら安心できる」
霧が立ち上がって私をベッドに誘った。
出典=WEBオリジナル
遠田潤子
作家
1966年大阪府生まれ。関西大学文学部独逸文学科卒業。2009年『月桃夜』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10』第1位、『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位に輝く。『冬雷』で第1回未来屋小説大賞、25年『ミナミの春』で山田風太郎賞を受賞。他の著書に『銀花の蔵』『イオカステの揺籃』『天上の火焔』などがある。
