厚生労働省の「令和5年(2023)患者調査」によると、在宅医療を受けた推計外来患者数は年々増加傾向にあるそうです。そんな中で、2000人以上を看取った在宅緩和ケア医・萬田緑平先生は、「涙を乗り越えた患者さんは幸せな死を受け入れる強さを持てる」と語ります。そこで今回は萬田先生の著書『死ぬまで生きる: 穏やかな死に医療はいらない』(河出書房新社)より一部を抜粋し、お届けします。
「トイレに行くこと」は生きている証し
「おむつなんかイヤ。死んだほうがまし」
僕が病院勤務時代に患者さんからよく訴えられた言葉です。当時、僕は病院のなかでは誰よりも真剣に患者さんの看取りをしていると自負していましたが、この訴えの切実さがピンときませんでした。
おむつより命のほうが大事でしょうと、当然のように思っていました。
在宅緩和ケア医になってようやく患者さんの気持ちが理解できるようになりました。おむつと命は引きかえにできないけれど、命の話を持ち出すくらい排泄問題は深刻だったのです。
治療なんかどうでもいいけれど、トイレだけは譲れない――。