「俺は怪我をしているんだぜ」と、包帯を巻いて歩く猫

私が13歳の時から9年間家で飼っていた猫の『チロ』は、人間のような言葉は発しなかったが、人間のすることをよく見ていた。

チロは、外に開くドアに鍵がかかっていないと、ノブに飛びつき、体重をかけてドアを開けようとした。襖や障子の戸は、前足で開けていた。閉めはしなかったが……。

ある日、左の前足が腫れていたので、母が獣医さんに電話すると、往診をしてくれた。

獣医さんが座布団の上に正座すると、チロはかしこまったように獣医さんの前に坐った。

母が「暴れるといけないから、押さえましょう」と立ち上がろうとすると、チロは左の前足を持ち上げた。「ここが痛いのだ」と見せているようで、獣医さんも母も私も驚いた。

「変わった猫ちゃんですねぇ」と獣医さんは言い、チロの左の前足を診察して、「傷がありますね。薬をつけます」と言った。チロは暴れず、大人しく薬をつけてもらい、包帯も巻いてもらっていた。それは不思議な光景だった。

獣医さんは、「包帯を噛んだりして、取れてしまってもいいですよ。明後日、また私は来ますから」と言い、帰った。

次の往診の日、私が学校から帰ると、母は「獣医さんはチロの包帯を見て、『奥さんは看護婦をしていたのですか?包帯の巻き方が見事ですね』とほめたから、『先生が巻いたままですよ』と言ったら、先生は自分をほめたので、顔を赤くして照れていた」と話した。

チロは包帯を巻かれると、その足を少ししか床につかず、「俺は怪我をしているんだぜ」という歩き方をして、包帯を取らなかったのだ。

私が手を怪我して母に包帯を巻かれた時や兄が足首を捻挫して歩く姿を、チロはじっと見ていたことを思い出した。チロが心配してくれているのだと思っていたのだが…。

しろぼしマーサから「急須からそそいだお茶は熱いのだ」と教育を受けるチロ。お客様の膝にチロは乗り、前足で茶碗のお茶の湯加減をみていた。何人ものお客様が、出されたお茶を飲めなくなった