医療器具のレプリカを製作
明治初期の医療を映像化するのは難しかった。レントゲンなど現代なら当たり前にある医療機器がないため、表現できる範囲が狭いからだ。「当時の資料があっても実物や写真が残っていないことが多くて。医事考証の冨田泰彦先生が協力してくださっていますが、『この時代は難しい』とおっしゃっていました」と川名さん。
美術チームでは、当時の貴重な医療器具を保管する大学や博物館で明治時代の医療を取材するなど、どうやって映像化するのか詳細に検討していった。
りんの担当患者だった園部の再手術が描かれた第33回では、当時の外科手術が丁寧に描かれた。古川雄大演じる今井益男外科教授らはスーツ姿で革製のエプロンを着けて手術に臨んだ。今とは衛生概念も手術器具も違う時代だけに、SNSでも大きな反響を呼んだ。
NHKアートの美術進行チーフ、佐藤綾子さんは「白衣で外科手術をするようになったのは日清戦争以降ということです。医師がスーツ姿で手術をしていたと聞いて驚きました」と振り返る。
手術室は、手元を照らす大きな天窓の明り取りがついた木造の作り。手術前に使われていたスプレーのような器具は、「石炭酸噴霧器」だ。当時は、空気中の細菌を死滅させるために、石炭酸を手術の際に噴霧していたという。博物館に展示されている「石炭酸噴霧器」を参考に、撮影で使えるように美術チームでレプリカを製作して使用した。
明治初期の外科手術では麻酔も使用されたが現代とは器具もやり方もまったく違う。劇中では、園部はガーゼに麻酔をしみ込ませたものを吸入させられていた。佐藤さんは「当時の麻酔は、覚醒しないギリギリのタイミングを考え、人力で麻酔液をガーゼにたらしていたそうです」と明かす。
近代的看護を学んだりんと直美は帝都医大病院で見習いを始めるも、患者から「下女」と罵られたり、医者からも仕事内容を誤解されたりと、「看護をめぐる理解のなさ」が描かれてきた。それでも、りんの千佳子に対する看護などをきっかけに、少しずつ看護婦の仕事が理解され始めている。これから看護婦となったりんや直美の活躍の場が広がっていくはずだ。
川名さんは「美術の面からも西洋化や医療の近代化を感じてもらえたら」と話している。