経験豊かだからこそ

この日、ニューヨーク州は雷が激しかった。

20時37分以降、変電所や送電線施設に複数回の落雷があり、ニューヨーク市内に向かう送電線5本のうち、3本がダメになってしまった。残りの機能に負荷がかかりすぎると、送電システムが停止しかねない。

『世界を変えた「凡ミス」図鑑:昔の人たち、やらかしすぎ!』(著:近藤仁美/三笠書房)

そこで、電力会社の統括団体の人から、大手電力会社コンソリデーテッド・エジソン社の社員に、システムの負荷を軽くする処理が要請された。

電話を受けたのは、ベテランの社員だった。「それなら安心だ」と言いたいところだが、経験豊かだからこそ、かえって慢心があった。

統括団体から要請された処理は、電気の供給側にとっては、できれば避けたいものだった。というのも、一部の地域をあえて停電させてシステムを守るという方法なので、あとで苦情や責任問題に発展しかねない。

(なんで俺が当直の日に……)

余計なことをして怒られるのは、まっぴらだった。そこで、統括団体の人には「やります」と言いながら、実のところのらくらかわしていた。

しばらくして、また電話がかかってきた。

再度処理を急かされたが、ここでもまたしらを切った。もっといえば、計画的に停電を起こそうにも、そのための人員がいなかったのだ。原因は、勝手な自己判断。このベテラン社員は、緊急要員として控えているはずのスタッフを、家に帰してしまっていた。

さて、天気は荒れ続けるが、必要な処理はいっこうに行なわれない。