最期の願い

葬儀は自宅で、ごく限られた人のみで行ってほしい、死んだことは極力秘密にしてほしいというのが祖母の遺言だった。「自宅で密葬」というのは現代の東京の住宅街においては結構な難易度であるが、祖母の本当に最期の願いである。我々はその我儘に振り回されることにした。

葬儀の前日、納棺師の方が自宅に来られた。お風呂が好きだった祖母のために湯灌(ゆかん)をお願いした。

「お髪(ぐし)は遺族の皆様も洗って差し上げてください」

横たわる祖母の髪に指を通す。納棺師の方が用意してくださったお湯は適温だった。祖母がまだ自宅にいた頃、腕を頭の上に上げておくのがしんどいと言う祖母のために、頭を洗ってやっていたのだった。祖母の髪を洗うのは何年ぶりだろうか。102歳とは思えないほど祖母の髪は豊かで黒々としていた。

葬儀社の皆さんの手際は圧巻で、客間はみるみるうちに斎場と化した。祖母はいつもテレビを見ていたリビングで棺に納められ、周りは満開の白い花で飾られた。その夜、私と母は祖母の棺の横に布団を並べ、川の字で眠った。私は祖母の夢を見た。祖母は旅支度をしながら、

「この杖がねえ、助かるのよ」

と、先ほど納棺師の方に入れていただいた杖を振り回していた。

祖母の希望通り、自宅での葬儀はつつがなく進行していった。出棺に際し、喪主である母から挨拶があった。母があんなに泣き声で喋るのを初めて聞いた。母の声で参列者も涙した。それぞれの中に祖母がいる。祖母のために心を寄せてくれる人がいる。その事実にホッとして、私も涙を流した。

 

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