配慮することを忘れ、マスクをかける機会は以前より減り、そして、自らの口から発するニンニク臭を甘くみた。
どうしよう。これから番組の収録がある。収録中はマスクをしない。アクリルの仕切り板もない。他の出演者に、「アガワ、クサい!」と言われないためにはどうすればいいか。
「リンゴ、リンゴ!」
スタッフの一人が声高らかに唱えた。
「リンゴは効きます! 効果絶大!」
番組の準備をしている私に代わり、彼女がコンビニに走り、カットリンゴを買ってきてくれた。一切れを口に放り込む。冷たくて甘い。モワモワとした口の中が浄化されていく気分。近頃のコンビニにはこんなにおいしい新鮮リンゴが袋に入って売られているのか。バクバク食べる。
「どう? ハアアー」
「だいぶよくなったみたい」
でもまだクサいらしい。今度は別のスタッフから、
「コーヒーがいいらしいですよ」
「いや、緑茶もいいみたい」
楽屋の外からいろいろなアドバイスが飛んでくる。とりあえず緑茶を飲もう。どんどん飲む。緑茶を飲みながら、思い出した。
昔々、何かの本に書いてあった。著者は鎌倉在住の作家だったと思う。ニンニクを食べた翌日は、梅干しを一つ丸ごと口に含むという。家を出るときに梅干しを口に放り込み、鎌倉駅から横須賀線に乗り、東京駅に着く頃にはニンニク臭が消えていると、その方は書いておられた。そんなに長く梅干しを舐め続けるのか。どうやら酸っぱくて柔らかい果肉をすっかり舐めたあとも、ゴリゴリした種をずっと口で転がしながら舐め続けることが大事らしい。
以来、私はこの梅干し法を何度も試みた。梅干しの種がニンニク臭を吸収してくれる気がした。でも、スタッフに再びコンビニに行って梅干しを買ってきてとは言えない。リンゴと緑茶でなんとかしよう。
