夕飯を食べていたら、知らない人たちが見学に来た

私が小学校低学年の頃だった。母と4歳年上の兄と私が、昭和を代表するような丸いちゃぶ台で、質素な夕飯を食べている時だった。

玄関の引き戸が開いて、「こちらです。どうぞご自由に見てください」という男性の声がした。母も兄も私も何事だと身構えた。

そして、いきなり夕飯を食べている部屋の引き戸が開き、「あっ、メシ食っている!」と会ったことのない40歳くらいの男性が立ったまま言った。

「えっ!」と、大声がして、50歳くらいの別の男性が、引き戸を全開にした。後ろには30代半ばに見える女性と小学生と思える男の子が2人、立っていた。

私の母は立ち上がって怒鳴った。「なんなのよ!あんたたち!」。

すると50歳くらいの男性が、「不動産会社の社長ですよ。夜逃げしたのになんでいるんですか!家を売ることを頼んだのに!」と、大声を出した。

母はひるまなかった。「誰が家を売るなんて言った!出て行け!」。

兄は、「お父さんに聞いてみる」と言い、父の会社に電話をした。父と不動産会社の社長は電話で話を始めた。驚くべき事実が明らかになった。

近所に住む父の友人のAさんが、その社長に自分の家の売却を頼んだ。すると社長が「角地なら高く買いたい」と言ったため、自分の家と共に私の家が角地なので「あの家の主人は金に困り夜逃げをする前に、俺に自宅の売却を頼んだ」とウソの話をしたというのだ。

不動産会社といっても社長と事務員が1人だそうで、社長は、ものすごく口のうまいAさんに騙されたのだ。

父との電話会談により、騙されたことが分かった社長は放心状態になり、あきれた表情の夫婦と子供2人は、社長と共に帰った。