受け手の「へえ!」のために

冨田さんは、ドラマ化もされた漫画『JIN-仁-』(作・村上もとか)の監修のオファーをきっかけに、考証の仕事を始めた。現代に生きる脳外科医の南方仁が幕末にタイムスリップするストーリーで、仁には現代医療の知識があるとはいえ、幕末に可能な治療には限界がある。時代背景を考慮した医療技術を助言し、物語のリアリティを担保した。

『神様のカルテ(コミックス版)』や『Dr.DMAT』などこれまで医事考証に関わった作品は60に上る。監修では、常に受け手の存在を意識してきた。原点でもある『JIN-仁-』の作者、村上もとかさんの言葉が印象に残っているからだ。

「見てくれている人が『へえ!』って思ってくれなくちゃダメなんです。その『へえ!』のためにいろいろなアイデアをできるだけ教えてください」

この言葉を大切に医事考証の仕事に向き合ってきた。

「作品に医療面でのリアルさを盛り込むことによって、受け手の関心が高まると感じています。ある意味、医療情報の発信みたいな部分がある。『風、薫る』の手術シーンでは、明治の医療を伝えられたと思っています。それに対してプラスの評価もマイナスの評価もあるけれど、考えるきっかけを作れたことの意義は大きいのではないでしょうか」と打ち明ける。

『風、薫る』場面写真
『風、薫る』/(c)NHK

漫画やドラマはフィクションだからこそ、人物の心情がこまやかに描かれエピソードが展開することで、受け手の心を大きく動かすことができる。救急医療や脳神経外科のキャリアを経て、現在は医療教育を専門にする冨田さんにとって、関わった作品を通して医療人材育成や医療情報発信に寄与することは喜びにつながっているのだ。

冨田さんは、自身が関わった作品をきっかけに、医師を志した人たちにも出会ってきた。『仁-JIN-』を読んで脳外科医になった人にも会いました。本当に嬉しかったし、この仕事をしてきてよかったと思えました。私の監修したドラマをきっかけに医師や看護師になりたいと思うようになったというSNSの投稿を目にすることもあるんです」とやりがいを語る。