変装による捜査

早朝、JRの駅近くの釣り堀の前で、開場を待っている、あるいは連れとの待ち合わせをしている、そのどちらともとれるよう釣り人の格好をして、スパイの通過を確認すべくクーラーボックスに腰かけていた。なぜ、そんな手の込んだことをするのかというと、普通の格好で早朝の駅周辺にただ立っていると意外と人目につくからだ。訓練を受けたスパイであれば、それが公安であることをすぐに見抜いてしまう。

しばらく待っていると、外交官ナンバーをつけた件のスパイの車が目の前を通りすぎた。周囲には5、6人の捜査員がやはり釣り人などの格好をして配置されている。私はすぐに車がどの方向に向かったか連絡をした。彼らはバイクや自転車、車といった手段で、スパイの車の後を追った。

『警視庁公安部外事課 スパイ・テロを水面下で阻止する組織の実態』(著:勝丸円覚/光文社)

後で捜査員に聞いたところによると、ロシアのスパイは駅から車で5分ほど走ったところにあるビルに入ったとのことだった。その日、このビルでは民間の団体が主催する日ロ経済のシンポジウムが行なわれることになっていた。これに参加し、協力者を探していたに違いない。

このように、変装による捜査も公安の大事な仕事の一つだ。警察に協力的な店にお願いして、店員に変装することもある。バーテンダーに変装し、グラスから対象者の指紋を採取するということもあった。