点検と消毒

また、自分が尾行された時、警察に協力的な店に駆け込むこともあった。店内で従業員用エプロンを使って従業員になりすましたり、裏口から抜け出ていったりするためだ。

このように、ターゲットを尾行しているつもりが、逆に自分が尾行されることがときどきある。ターゲットが所属するグループがあらかじめ公安の周辺に監視態勢を作っていて、追ってきた者を逆に尾行し返すケースだ。

(写真提供:Photo AC)

そういう時、相手に自宅を突き止められては困るので、尾行に従事した後は何度も自分が尾行されていないか確かめ、尾行者を振り切ろうとする行動をとる。いわゆる「点検」と「消毒」だ。

点検によって尾行者の存在に気づいた時は、乗った電車のドアが閉まる直前にホームに降りたり、自宅とは反対方向の電車に乗ったりする。そして、駅を出たらあっちに行ったりこっちに行ったりしながら、尾行がないことを確認する(消毒)。「公安の職業病の最たるもの」が、この「点検グセ」「消毒グセ」だろう。

自分の身元がバレるのを防ぐ策の一つとして、公安では常に点検と消毒をすることが望ましいとされている。とはいえ、それにも限界があるので、メリハリをつけて行なうようにしている。実際にスパイを追跡した日や情報提供者に会いに行く日などは、普段よりも細心かつ回数を増やして点検の実施を心がけていた。

出勤時は「自宅を出る時」「自宅からの最寄り駅に着いた時」「乗換え駅に着いた時」「職場の最寄り駅に着いた時」などに点検を行ない、帰宅時なら「職場を出た時」「職場からの最寄り駅に着いた時」「乗換え駅に着いた時」「自宅の最寄り駅に着いた時」などで重点的に点検する。

だから休日に家族で買い物に出かけた時も、いつの間にか点検している自分に気づく。家族からすると、かなり挙動不審に映る時もあるようだ。