素行調査
公安の任務に就いたばかりの者、公安の仕事に復帰したばかりの者を、業務に適しているかどうか調べるため、“素行調査”をすることがある。
私自身、公安仲間の尾行をしたこともあるし、反対に尾行をされたこともある。尾行をされたのは、私がアフリカ某国での大使館勤務を終え、日本での公安捜査に復帰した直後のことだ。
ある時、電車のシートでスマホに目をやって、ふと視線を上げた瞬間、斜め右前の男性と斜め左前の女性が同時に私からさっと目をそらした。おそらく、公安の仕事に復帰したばかりの私が、大使館勤務の間に他国の手先として動くようになっていないか調査していたのだろう。
二人は私の自宅を知っているはずだから、消毒をして尾行をまいたとしても意味はない。それどころか、あらぬ疑いをかけられるだけである。
私は二人の存在に気づいたことなど露ほども態度に表さず、いつものように行動した。もっとも、彼らは私に気づかれたと思ったのか、途中の駅で電車を降りてしまったが。
もしかしたら、私が気づく数日前から、二人は私のことを監視していたのかもしれない。いずれにしても、尾行のプロとプロが電車の中で無言で火花を散らしていたことを、他の乗客は知るはずもない。
※本稿は、『警視庁公安部外事課 スパイ・テロを水面下で阻止する組織の実態』(光文社)の一部を再編集したものです。
『警視庁公安部外事課 スパイ・テロを水面下で阻止する組織の実態』(著:勝丸円覚/光文社)
日曜劇場『VIVANT』(TBS系)の監修もつとめる元警視庁公安部外事課の著者が、
日本を舞台に繰り広げられるスパイ活動の実態を明かす。




