細美しい所作を育てる「着物」というドレスコード
若い頃は身体が軽やかで、大股で颯爽と歩き、手振り身振りも大きく、活力が溢れているものです。洋服もまた、その人の身体のラインに沿った曲線的な裁断によって、自由で大きな動きを支えてくれます。
一方で、年齢を重ねるにつれて、歩幅、歩く速度、腕の振りは少しずつ小さく、ゆるやかになっていきます。
着物はまさにその動きに寄り添う衣服です。裾が重なっているため、小股で、かつゆっくり歩かないと裾がはだけてしまいます。腕を大きく振れば、とたんに胸元が乱れ、頭の位置が上下に動けば、全体の着くずれにもつながります。
だから着物を着るときには、小股で全体の動作は控えめに、ゆっくりと動くことを自然に求められます。着物が導く動きは、大人世代になればなるほど、無理のない自然で美しい所作に感じられるのです。
また、年齢と共に、背筋が衰えてきて、背中はうつむきがちになってきますが、着物は背筋を伸ばしていないとすぐにシワがよってしまう。また太い帯を胴まわりに巻くため、お腹を曲げると帯があたって苦しくなるので、自然と背筋を伸ばすように意識が働きます。
実際、年齢を重ねるほどにお客様から、「着物を着ると背筋が伸びて若返るわ」とのお声を聞きます。
着物は気配りを育ててくれる衣服でもあります。
袖が長いため、物に引っかけないよう注意が必要です。裾も長いので、汚したり踏んだりしないよう、足元にも意識が向きます。
さらに女性の着物姿では、首の後ろが美しく見えるよう、衿を少し後ろに抜いて着ます。帯の柄は背中で見せるため、後ろ姿にも自然と気を配るようになります。
つまり着物をまとうと、周囲に何があるか、自分がどのように見えているかを、常にさりげなく意識するようになるのです。その積み重ねが、細やかな所作や気配りを自然に育てていきます。
着物は大人の「味」をかもしだすための、必須の「ドレスコード」なのです。
