一度も会えなかった実の父

当たり前のことですが、だれにも先のことはわかりません。

いつまで生きるのかも、なかなかわからない。

『身辺整理』(著:鎌田實/明日香出版社)

お金やモノは、あの世には持っていけない。

これも、みんなわかっていることです。

そういうことは、わかっているけれど、みんな不安なんだと思います。

お金やモノだけではありません。

嫉妬も、怒りも、憎しみも、悲しみも、しがらみも……。

身辺整理をしないまま、そういう感情をみんな溜め込んで、ゼロにできずに死んでいく。

僕の実の父は、僕が幼児だったころに僕を捨てました。

その後、事業に成功し、ある業界をまとめあげ、日本のリーダーになって成功した、と人から聞きました。

自分が世話になっていた病院に何億円かの寄付をした、という噂も聞きました。

僕はこの父に捨てられたあと、一度も会ったことがありません。

でも、僕の実の母とは、亡くなる前に何回か会うことができました。

戦後のドサクサの中で、母が苦渋の選択をしたこともわかりました。

寝たきりになった母をお見舞いすることもできました。お見舞いに行って、手を握ることもできました。

父は、脳卒中で倒れました。

しかし、父が倒れたことを知らず、お見舞いに行くことはできませんでした。

亡くなったあとで、墓参りをし、手を合わせました。

見たこともない、大きな墓でした。